けが人が続出して野戦病院状態の日本代表センターバック陣。そんな非常事態のさなかに、高井幸大(20)がイングランド・プレミアリーグに初挑戦するという知らせは明るい話題だ。高井が新天地で成功するか否かは、2026年に北中米ワールドカップに臨む日本代表にも大きく影響を及ぼす。
しかし、加入するのは6強のトッテナム・ホットスパーFC。ディフェンダーというポジション的にレギュラーに食い込めないと、なかなか出場機会は得られない。そんな大勝負に挑む高井が越えなければならない高い壁について考えてみたい。
「高井は安い」というイングランドでの評価
トッテナム・ホットスパーは、日本代表DF高井幸大を川崎フロンターレから獲得したことを発表した。2030年までの5年契約だ。
移籍金は推定500万ポンド(約10億円)と言われている。これは、日本から直接の移籍で発生した史上最高額となる。しかし、イングランドでは、高井の能力や年齢を鑑みればお買い得で「安い」という評価だ。イングランドで誰も止められなかったクリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)を高井が抑え込んだ噂は伝わっている。
渡英した高井は「プレミアリーグは小さい頃からたくさん観てきました。トッテナムでは、まずいち早く試合に出場して活躍することが今の自分の目標です」と語る。
「マイ・ポジション・イズ・センターバック。カモン、ユー、スパーズ!」(僕のポジションはセンターバック。行くぞ、スパーズの君!)と早速、英語でも挨拶している。
トッテナムは、プレミアリーグのビッグ6の一角をなすが、2024-2025シーズンは17位と低迷。挽回を目指す2025-2026シーズンへ向けて、日本代表で台頭著しい高井に白羽の矢が立った。日本代表で主力に定着しつつあるが、プレミアリーグは各国の代表選手たちが凌ぎを削る世界最高峰だ。そんな高井の前には、幾多の試練が待ち受ける。
コミュニケーションという壁
新たに就任したトーマス・フランク監督が、2025-2026シーズンからトッテナムの指揮をとることになる。チームを作り直すため、新加入の高井にとってもアピール次第ではスタメンに食い込んでいきやすい状況だ。
トーマス・フランク監督は、ロンドンの中堅クラブであるブレントフォードをプレミアリーグ昇格に導き4シーズン連続で残留させた実績があり、手腕に定評がある。また、緻密に計算された柔軟な戦術を採用することで知られる。
つまり、選手はコミュニケーション能力と要求を体現する能力が試されることになる。
それに加えて、外国籍選手である高井には英語も障壁となる。プレミアリーグの試合には通訳を同伴することができないため、高井には英語力が求められる。現場の英語は、まくし立てたり、訛りが強かったりして英会話教室とは全く異なるため、慣れるのには時間を要するだろう。
選手層という壁
シーズンが始まる前の時点において、率直に言って高井はバックアップという位置づけだろう。中心線やディフェンスの選手には、チーム全体を統率する役割も求められる傾向がある。どれだけ実力があっても新加入の外国籍の若手選手が、すぐに中心選手になるのはかなり難しいものがある。
ただし、プレシーズンのパフォーマンス次第では、公式戦の出場も十分にあり得るだろう。高井はポテンシャルがあり、きっかけ次第でどんどん成長するだけの伸びしろがある。
夏季は移籍が盛んなため、メンバーが入れ替わることも十分に考えられるが、トッテナムのセンターバックは下記のような顔ぶれだ。
主力級CB:
- クリスチャン・ロメロ(アルゼンチン代表:身長185cm・体重79kg・27歳)駆け引きと判断力に長けており、激しいタックルを繰り出す。ビルドアップ能力と攻撃力も兼ね備える
- ミッキー・ファン・デ・フェン(オランダ代表:身長193cm・体重83kg・24歳):ボールを奪った際のスピードに乗った攻撃は切れ味鋭い。
- ラドゥ・ドラグシン(ルーマニア代表:身長191cm・体重85kg・23歳)ペナルティエリア内で鉄壁の強さを発揮する。
バックアップCB候補:
- 高井幸大(日本代表:身長192cm・体重90kg・20歳)サイズとスピードを兼ね備え、正確なロングフィードを持つ。
- ベン・デイヴィス(ウェールズ代表:身長181cm・体重76kg・32歳)左フルバック(サイドバック)やセンターバックでプレー可能で、ユーティリティ性がある。
- ケヴィン・ダンソ(オーストリア代表:身長190cm・体重85kg・26歳)ガーナにルーツがあり、類まれな身体能力でボールを奪取する。
- アシュリー・フィリップス(イングランドU20:身長192cm・体重74kg・20歳)軽やかな身のこなし。イングランド下部で経験を積んだ若手ディフェンダー。
- ルカ・ヴシュコヴィッチ(クロアチア代表:身長193cm・体重86kg・18歳)期限付きでベルギーでプレー。足元の技術があり、攻撃参加が得意。ディフェンダーながら得点力もある。(下に記事が続きます)
21歳という壁
若手選手は、現在の実力だけではなく将来的なポテンシャルも考慮して獲得されることがある。20歳の高井にも当てはまるが、実はそれだけではない。プレミアクラブのファーストチームに登録できるのは25人だが、21歳以下の選手は、この枠に関係なく登録できるのだ。
つまり、21歳を過ぎると、さらに厳しい目で見られることになる。それまでに実力を証明し、チームでの地位を確固たるものにしたい。現在の高井は、25人の選手登録枠を圧迫せず、ファーストチームの即戦力になりうるという評価だろう。21歳を過ぎて即戦力として見込めないと判断されると、期限付き移籍も検討されることになるかもしれない。(下に記事が続きます)
日本人ディフェンダー100%成功という壁
トッテナムに隣接する地域にはアーセナルが本拠地を置く。数あるロンドンのクラブの中でもライバル意識が強く、両クラブの対戦はノース・ロンドン・ダービーと呼ばれる。
2021年~2025年にかけてアーセナルでプレーした冨安健洋。怪我に苦しんだ時期もあったが、ガナーズで大きなインパクトを残したことは間違いない。
そして、プレミアにおける日本人センターバック第1号となった吉田麻也(2012年~2020年)も周囲の予想とは裏腹に成功を収めた。
つまり、イングランドに挑戦した日本代表センターバックは皆、成功しているのだ。とりわけ、冨安は毎年のように優勝候補に挙げられる名門アーセナルで主力の座をつかんだ。
この壁を越えるのは並大抵のことではない。「プレミア日本人センターバック100%成功」の実績を維持するという大きなプレッシャーが高井の肩に重くのしかかる。その重圧を跳ねのけて活躍をすることができるかに注目だ。
高井「高い壁が待っている」
渡欧前の最後の試合後に、高井は川崎フロンターレのサポーターに挨拶の言葉を述べた。
高井幸大のコメント:僕は小さい頃からのもう1つの目標であった、ヨーロッパでサッカーをすることに決めました。今までよりも高い高い壁が待っていると思うんですけど、今までの経験だったり、ここで培ったものを存分に生かして、このクラブの代表として頑張っていきたいと思います。
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