男子テニス元王者のロジャー・フェデラーさんが2024年6月、米ダートマス大学の卒業式でスピーチをした。グランドスラムで歴代3位の優勝回数20回を誇るレジェンドは”Effortless is a myth”=エフォートレス・イズ・ア・ミス、楽勝は幻想=をはじめ、3つの「テニス・レッスン」を披露した。自身のエピソードをふんだんに盛り込んだ25分は反響を呼び、大学の公式YouTubeでの再生回数は2か月で200万回を超えている。一部を紹介する。
レッスン1:楽勝は幻想
ダートマス大学はアイビーリーグ8校のひとつで6月9日、卒業式が行われた。同大から名誉博士号を授与されたフェデラーは、黒いガウン姿で大学の象徴である松の木の演台(ジ・オールド・パイン・レクターン)に立った。「ダートマス・グリーン」と呼ばれる広い芝生の広場を埋めた卒業生たち1000人を前に、ウィンブルドンで男子最多となる8回の優勝を果たした芝の王者は「ここは好きなサーフェスだ(Surface=表面。テニスでは天然芝やクレーなどコート表面の素材をさす)」と笑わせたあと、「私は2022年にテニスから卒業した。あなたたちは2024年、大学を卒業する。少し先輩である私が、いくつかの教訓をシェアしましょう」と話し出した。
最初に挙げたのが「楽勝は幻想」、”Effortless is a myth”だ。
キャリア初期にはラケットを投げるなど冷静さを欠いた行動もあったが、ライバルの言葉のおかげで目覚め、ハードな練習に取り組むようになった。「最も優雅なプレーヤー」との評価の裏で、試合前にはライバルたちよりも努力したと振り返った。「才能(タレント)とは「天賦の才(ギフト)」を持っているかどうかではなく「不屈の精神(グリット)」を持っているかどうか」と強調した。
自分を信じることは才能です。プロセスを受け入れ、プロセスを愛することは才能です。生まれつき持っている人もいるが、だれもが努力しなければなりません。
Trusting yourself is a talent. Embracing the process, loving the process, is a talent. Some people are born with them. Everybody has to work at them.
(下に記事が続きます)
レッスン2:たかが1ポイントだ
It’s only a point.
フェデラーがシングルスで戦ったのは1526試合で、勝率は80%にもなる。ただし、獲得したポイントは全体の「わずか54%」で、1ショットにこだわり過ぎないことを学んだという。フェデラーの勝負強さとセット制のスポーツの特徴を数字が物語っている。
「ダブルフォールトをしても、まだ1ポイント」「ネットに詰めて抜かれた。たかが1ポイント」。こうして起きたミスを振り返らず、切り替えて苦しい時間を乗り越えたという。
世界一の選手は、すべてのポイントを得るから世界一なのではありません。何度も負けることを知っていて、どう対処するかを学んでいるから世界一なのです。
The best in the world are not the best because they win every point. It’s because they know they’ll lose again and again, and have learned how to deal with it.
必要なら泣いて、そして笑顔で。前に進んでください。 根気よく。 適応し、成長してください。ハードワークをしてください。スマートさも忘れずに。
Cry it out if you need to… then force a smile. You move on. Be relentless. Adapt and grow. Work harder. Work smarter. Remember: work smarter.
レッスン3:人生はテニスコートより大きい
Life is bigger than the court.
シングルスのテニスコートは2,106平方フィート(195.63平方メートル)。フェデラーはその小さな空間でプロとして約24年プレーし、学んだ。「しかし、世界はテニスコートよりもずっと広い。テニスが世界になることは決してない」。
「テニスは私にたくさんの思い出を与えてくれました。しかしコート外での経験も同じくらい大切」と、22歳から取り組んでいるアフリカ・サハラ以南の子どもたちに教育を届けるロジャー・フェデラー財団の活動を紹介しました。
「慣れ親しんだ世界を後にし、新しい世界を見つけることは、信じられないほど深く、すばらしくドキドキするものです」「もし皆さんがスイスや、世界のどこかの街で私を見かけたら、20年後でも30年後でも、私がグレイ・ヘアであってもなくても、ぜひ声をかけてください。あの日、グリーンにいました。私はみなさんの同期生です。私も2024年卒業です」と思いを語りかけ、下記の言葉でスピーチを締めくくった。
どんなゲームを選んでも、全力を尽くしてください。自分のショットを狙って。自由にプレーして。何でもトライしてください。そして何よりも、お互いに親切にし、楽しんでください。卒業おめでとう、クラス・オブ・2024!
Whatever game you choose, give it your best. Go for your shots. Play free. Try everything. And most of all, be kind to one another… and have fun out there. Congratulations again, Class of 2024!
ロジャー・フェデラー(Roger Federer) 1981年、スイス・バーゼル出身。1998年にプロ転向、2003年ウィンブルドンで初優勝を果たして以降、グランドスラムで優勝20回(歴代3位)。ウィンブルドンは2003年から5連覇、最多8回の優勝を誇る「芝の王者」。生涯通算成績は1382勝368敗(シングルス 1251勝275敗、ダブルス131勝93敗)。2022年に現役を”卒業”。
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