サッカーの欧州チャンピオンズリーグは、2025年5月31日にドイツ・ミュンヘンのフースバル・アレーナ・ミュンヘンで決勝があり、パリ・サンジェルマン(PSG)=フランス=がインテル・ミラノ(イタリア)を5-0で下し初優勝を飾った。5点差は欧州CL決勝での歴代最多得点差だった。
PSGが欧州CL決勝に進出したのは2度目なのに対して、インテル・ミラノは7度目で過去に3度も欧州王者になっている。クラブの経験値は圧倒的な差があったのにも関わらず、なぜそれに劣るPSGは欧州CL決勝における歴代最多となる5点差の爆勝を収めることができたのだろうか。
CL決勝戦・史上最多得点差、5ゴール
激闘を勝ち抜いてきた両軍の監督は、元スペイン代表MFルイス・エンリケ(PSG)と元イタリア代表FWシモーネ・インザーギ(インテル・ミラノ)。戦前の予想通り、立ち上がりからPSGがボールを支配し、インテル・ミラノが守備のブロックで受け止めるという展開になった。
PSGのルイス・エンリケ監督はFCバルセロナで欧州CLを制覇しており経験が豊富なためか、初の決勝の地を踏むことになったチームだったが、浮足立った様子は微塵も見せずに落ち着き払っていた。
堅守を伝統とするイタリアのチームとしては、できるかぎり無失点で凌ぎたいところだが早くも12分に被弾した。
ポルトガル代表MFヴィティーニャがペナルティエリア内に入れた短い縦パスを受けたフランス代表FWデジレ・ドゥエが、ボールを受けながらターンして横パス。すると、ゴール中央でフリーになったスペイン出身のモロッコ代表DFアクラフ・ハキミが、右足インサイドで流し込みPSGが先制した(1-0)。
20分には、左サイドでボールを持ったフランス代表FWウスマン・デンベレが右サイドに大きく展開。待ち受けたデジレ・ドゥエが胸トラップから右足でシュートすると、背を向けたイタリア代表MFフェデリコ・ディマルコの右足に当たってGKの逆側に吸い込まれた(2-0)。(下に記事が続きます)
試合中にフライングで祝勝会
63分にヴィティーニャのパスに反応したデジレ・ドゥエは、スピードに乗ったままゴール右側でボールを受けると再び右足を振り抜きニアサイドを貫く。試合を決定づける3点目を決めるとユニフォームを脱ぎ捨て、イエローカードを受けた(3-0)。
そして73分には、左サイドのウスマン・デンベレが相手DFの間に出したラストパスに走り込んだジョージア代表FWフヴィチャ・クヴァラツヘリアが抜け出して左足を振り抜くと、GKが倒れた逆側に突き刺さる。勝利を確信したPSGベンチの選手たちが走り寄り、早くもお祭りムードになった(4-0)。
87分には、左サイドでポルトガル代表DFヌーノ・メンデスとのパス交換でペナルティエリアに侵入したフランスU-20MFセニー・マユルがゴール至近距離から強烈な左足弾を叩き込むと、PSGは試合が終わったかのように喜びを爆発させた(5-0)。(下に記事が続きます)
立ち上がりで躓いたインテル
1試合を通じたデータと前半だけのデータを見比べてみよう。
前半のシュート数は、13本対2本でPSGが圧倒している。前半に2点リードを許したことで、インテル・ミラノにとっては非常に難しい試合になってしまった。試合序盤での失点はインテルにとって誤算だった。
後半に入ってようやく攻撃のスイッチが入ったインテル・ミラノ。しかし、時折見せるカウンター攻撃だけで、追いつき追い越すような圧倒的な攻撃力を見せることはできなかった。
そして、4点目が入ってからは、精神的に意気消沈。最終的には欧州一のクラブを決する試合とは思えないほどの一方的な展開で、歴史的な大差がついてしまった。 インテル・ミラノは屈辱の敗戦から3日後の6月3日、インザーギ監督の退任を発表した。
欧州CL決勝戦のデータ(PSG:インテル・ミラノ)
前後半:
- [ボールポゼッション]59%:41%
- [攻撃回数]46回:22回
- [シュート数]23本:8本
前半のみ:
- [ボールポゼッション]61%:39%
- [攻撃回数]22回:7回
- [シュート数]13本:2本
生まれ変わったデンベレが欧州CL年間最優秀選手
先制点をアシストし2得点した19歳のPSGのFWデジレ・ドゥエが、決勝戦の最優秀選手に選出された。
欧州CLのチーム・オブ・ザ・シーズン(年間ベスト・イレブン)には、PSGから7人が選出。
欧州CLのプレイヤー・オブ・ザ・シーズン(年間最優秀選手)には、15試合出場・8得点・6アシストのウスマン・デンベレが輝いた。この日の試合でも、攻守において完全無欠な働きを見せた。
類まれな攻撃の才能は疑いの余地がない。競技に対する集中力に浮き沈みがあった天才肌のアタッカー、デンベレ。本来はウインガーだが、1試合を通じて泥臭く前線からの守備でも貢献。あの抜かりのないチェイシングがなければ、PSGの戦術の肝となるトランジション(攻守の切り替え)は成立しなかったといっても過言ではない。
前線からのプレスでボールを奪うと、ポゼッションで相手を圧倒しゴール前深くまで攻め入る。そして、ボールを失うと、あっという間にまたボールを奪い返した。(下に記事が続きます)
子供のように、はしゃぐエンリケ監督
PSGのルイス・エンリケは、監督として史上7人目となる2クラブでの欧州CL制覇を成し遂げた。
また、2014-2015シーズンのFCバルセロナに続き、2クラブでの3冠を達成した。これは、ペップ・グアルディオラ(2008-2009のバルセロナ、2022-2023のマンチェスター・シティ)に次ぎ史上2人目の快挙だ。
ルイス・エンリケ率いるPSGは、パーフェクトゲームを演じてみせた。1試合を通して神がかり的な集中力だった。そして、1シーズンを通して高いパフォーマンスを発揮した。
試合が終了するとルイス・エンリケはシャツを脱ぎ捨て、引き締まった腕を黒いTシャツに通しビッグイヤー(優勝カップ)を手にし、子供のように体全体で喜びを表現した。その黒いTシャツには、親子でPSGのフラッグを立てるイラストがプリントされていた。
スタンドに目を向けると、サポーターが広げたビッグフラッグには、ルイス・エンリケと三女シャナちゃんがPSGのフラッグをセンタースポットに立てている絵が描かれていた。
2014-2015シーズンの優勝時にルイス・エンリケとシャナちゃんは、一緒にピッチにバルセロナのフラッグを立てた。しかし、2019年に骨肉腫により9歳にして急逝。もう一度、センターサークルで愛娘と一緒に旗を立てるのは、叶わぬ夢となっていた。
ペンスポニュースレター(無料)に登録ください
スポーツ特化型メディア“Pen&Sports”[ペンスポ]ではニュースレター(メルマガ)を発行しています。「へぇ」が詰まった独自ニュースとスポーツの風を届けます。下記のフォームにメールアドレスを記入して、ぜひ登録ください。
\ 感想をお寄せください /