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【ハンドボール】GK田口舞、熊本ビューストピンディーズに移籍 | 37歳「齢を重ねて見える景色」

ベンチからも、積極的な声かけでチームに貢献していた田口=2025年、久保写す
ベンチからも、積極的な声かけでチームに貢献していた田口=2025年1月、久保写す(以下すべて)
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リーグH女子最年長選手の田口舞(37)に、15年目の2024-2025シーズンを終えて感じていることを話してもらいました。年齢を重ねると肉体の衰えなどもありますが、それ以上に積み重なってくる喜びがあるようです。いつまでも向上心を失わない、自称「永遠の22歳」は、今もなお成長の途上にあります。

目次

田口舞という「勉強家」

筑波大学時代の田口。当時から愛想がよくて、自分の言葉で話せる選手だった=2008年12月
筑波大学時代の田口。当時から愛想がよくて、自分の言葉で話せる選手だった=2008年12月

人柄がよくて、頭もよくて、体の柔軟性は抜群。でも上のレベルでGKをやるには、ちょっと身長が足りないかな――というのが、筑波大学時代の田口舞の印象でした。最初に入った広島メイプルレッズ(現イズミメイプルレッズ広島)では、チャンスをつかみ切れませんでした。それでも飛騨高山ブラックブルズ岐阜に移籍後は正GKになり、チームの顔とも言える存在に成長しました。さらには30歳を過ぎてからザ・テラスホテルズラティーダ琉球に移り、創設メンバーとしてチームの土台を作りました。

正直言って、ここまで長く現役を続けるとは思ってもいませんでした。人柄のよさだけで生き残れるほど、リーグHは甘くありません。大学の先輩から「田口は昔から勉強が好きだもんな」と言われるように、最新のGKの技術を学び、ベテランになっても成長を続けてきたから、現代ハンドボールに適応できているのでしょう。「GKは30歳を過ぎてからがおもしろい」と言われるように、技術と経験の蓄積が物を言うポジション。様々な場所で経験を積み重ねてきた田口だからこそ見える景色があるようです。(下に記事が続きます)

濃密だったラティーダでの6年間

ラティーダの創設メンバーで、チーム最年長。若返ったチームをまとめてきた=2025年1月
ラティーダの創設メンバーで、チーム最年長。若返ったチームをまとめてきた=2025年1月

久保:2024~25年(リーグH元年)シーズンを終えて、ザ・テラスホテルズラティーダ琉球での戦いを振り返ってください。

田口:私個人のSNSにも書いたように「日本一のジェットコースターチーム」でした。いい時と悪い時の落差がジェットコースターみたいで、調子の波があるのは悪いことかもしれないけど、可能性も感じられたシーズンでした。レギュラーシーズン1位のブルーサクヤ鹿児島に2つ勝てて「みんなの調子が噛み合えば、こんなこともできるんだ」と実感できました。ただ若い選手が多いので、なぜそれが成功したのか、なんでこれができなかったのかが、まだわかっていない。自分の力の出し方をあまりわかっていない。そのあたりが改善されたら、もっと強くなるんだろうなと、やりながら感じていました。

久保:田口さんがラティーダに移籍してからの6年間で、監督も変わり、チームも変わりました。

田口:(初代監督の)高良政幸さんは本当に人柄がよくて。今でもラティーダのジュニアの指導で名護に来られます。私たちの練習のあとにジュニアが練習をやるんで、高良さんは少し早く来て、私たちの練習を眺めています。高良さんは本当に太陽みたいな温かい人なので、高良さんがいてくれたから、チームの土台が作れました。「苦しくても、楽しく明るく行こう」というチームカラーは、高良さんのおかげです。技術指導に関しては小学生をメインで教えてこられた方だから、そこは私と塩田真奈美と比嘉美咲紀の日本リーグ経験者3人で練習メニューを考えたりしていました。そのあとに(2代目の監督だった)積孝也さんがいたから、技術的な基礎作りができました。

久保:そして東長濱秀作監督になって日本リーグ(現在のリーグH)に参入し、今シーズンは7位と過去最高の成績でした。

田口:ラティーダでの6年間は、時が過ぎるのが速かったです。一般の大会から始まって、ジャパンオープン(リーグHに所属しない社会人チームの大会)に出て、リーグHに入って、今シーズンはプレーオフを争えるところまできて、一歩ずつ階段をのぼってきた感じです。6年間で色んなプロセスを経験させてもらったという意味では、とても濃い6年間でした。

久保:沖縄という土地柄も印象に残ったのでは。

田口:沖縄のハンドボールの熱量に触れられたのは、とてもよかったです。名護はハンドボールの下地がないので、男子の琉球コラソンほどお客さんを集められていませんが、今季は勝つ試合が増えて、新聞に載る機会も増えたから、応援してくれる方、声をかけてくださる方が増えました。こういうチームをゼロから作れたってことが、貴重な経験でした。

久保:ラティーダに移籍当初は、ホテルの皿洗いが仕事でしたよね。

田口:最後は在宅勤務で、チームの広報全般を担当していました。試合後に動画を撮って、すぐにアップしたり、SNS等に上がるチーム情報は、私がやっていました。皿洗いも楽しかったですよ。お皿を洗わせたら、沖縄県内で5本の指に入るくらい、速く洗えるようになりました。体はきつかったですけどね。立ち仕事だから、どうしても同じ姿勢が続いてしまうので。島袋彩乃トレーナーに相談して、珍しい形のお皿が来たら屈伸するとか、お盆が来たら肩を回すとか、ゲーム感覚で攻略していました。(下に記事が続きます)

うまいシューターが増えたけど

攻守に独創性あふれるプレーを見せる喜納歩菜(ザ・テラスホテルズラティーダ琉球)。DFでの危機管理能力は一級品=2025年1月
攻守に独創性あふれるプレーを見せる喜納歩菜(ザ・テラスホテルズラティーダ琉球)。DFでの危機管理能力は一級品=2025年1月

久保:長く現役を続けていると、リーグのレベルの変化は感じますか? 

田口:シュートが上手な子が増えましたね。相手のシューターを分析していても、分析にかからないシュートが増えました。シュートのバリエーションが多すぎて、従来の分類の枠に収まらないんです。シュートの球速も上がりましたね。グレイ クレア フランシス(熊本ビューストピンディーズ)や青麗子(ブルーサクヤ鹿児島)のように、「こんな速いボールが投げられるの?」という選手が増えてきました。 

久保:シュート精度や投げる動作は、10年前より確実に改善されていますね。

田口:シュートのレベルは上がったけど、逆にDFが上手い人が減ったような気がします。飛騨高山ブラックブルズ岐阜の時代は、DFの戦術理解が高いチームでした。ラティーダに来てからは、ウチだけではなく他のチームも「ああ、こんな風にやられちゃうんだ」というのが増えた印象です。攻撃のレベルが上がったからなのかもしれませんけど、私にはDFのレベルが下がっているように見えます。

久保:かつてのブルズには池之端弥生や中村愛歩のように、DFで気が利く選手がいました。

田口:そうそう。気が利く子が減りました。今はそういう動きができそうな子でも、基礎となる戦術の考え方だったり、フットワーク力、状況判断が足りていません。クロスアタックにしても、本当に行っていいタイミングではなかったりします。「やれと言われたから行きました」になるので、やるべきタイミングと仕掛けがマッチしません。

久保:ラティーダで言えば、喜納歩菜のDFの感性は一級品だと思うのですが。

田口:歩菜は一緒にプレーしていて楽しいですよ。歩菜も「行ける」と思ったタイミングが合えばいいんですけど、ギャンブル性が高いから、周りからすると「歩菜、今行っちゃうんだ」という時もあります。それで助けられることもありますけどね。チームは「自由にやっていいよ」でやっているので、後ろから見ている私も「歩菜は行くんだろうな」と頭に置いておかないと。

久保:喜納といえば、スナップスローのような打ち方で、流しの上にロングシュートを打ち込みます。日本ではこれまでいなかった、新しい打ち方じゃないですか?

田口:面白いですよね。練習で受けていても「オーッ!」と声が出ます。チームメイトの私が一番慣れているはずなのに。 (下に記事が続きます)

GKはみんな友達

北國ハニービー石川の須東三友紀GKコーチ(旧姓寺田)。おおらかなようでいて、キーピングの理論はかなり細かい
北國ハニービー石川の須東三友紀GKコーチ(旧姓寺田)。おおらかなようでいて、キーピングの理論はかなり細かい

久保:長く現役を続けていくなかで、田口さんの捕り方も変わったのでしょうか。 

田口:寺田さん(北國ハニービー石川・須東三友紀GKコーチの旧姓)には、合宿で北國ハニービー石川にお世話になった時、サイドシュートに対する考え方を聞いて、捕り方を変えました。アランマーレの菊池くん(啓太GKコーチ)がオンラインの講習会で教えていた内容を取り入れたりもしています。 

久保:菊池コーチは「立場上、リーグHの女子選手は直接指導できないけど、オンラインの講習会等は見てもらってもいいし、いいと思った内容はどんどん広めてほしい」と言っていますね。

田口:菊池くんは海外の最新の技術を取り入れて、基礎から応用まで幅広く網羅しています。菊池くんの話を聞いて、自分が今までやってきたことが合っていたんだというのもあるし、こういう捕り方もあるんだという発見もあります。ハイコーナーへのシュートに対して跳ばずに、一歩横に踏み出してから手を出す捕り方は、私も取り入れました。

久保:この捕り方をすれば、小柄なGKでも跳ばずにハイコーナーに手が届きます。これで課題だったハイコーナーを克服したんですね。

田口:私は若い頃、サイドシュートも苦手でした。「この世からサイドシュートがなくなればいいのに」と思っていたくらいですけど、苦手と思わなくなったのは、寺田さんの考え方を聞いてからです。足の運び方、面の向け方など、寺田さんは凄く細かいところまで詰めてやっています。

久保:寺田さんは「私はスローイングだけや」と、よく言っていますが。

寺田:騙されていますよ。その時点で駆け引きが始まっています(笑)。寺田さんはそんなに上背がないけど、本当に細かいところまで考えてやっています。

久保:GKはチームの垣根を超えて、情報交換をしていますね。

田口:寺田さんもよく言っていますけど、「GKはみんな友達」なんですよ。私も同じような気持ちで、他のチームのGKと接しています。 (下に記事が続きます)

最初の一本を止める

スタートでも途中からでも結果を残す田口。2024~25年の阻止率は.342でリーグ6位だった=2024年9月
スタートでも途中からでも結果を残す田口。2024~25年の阻止率は.342でリーグ6位だった=2024年9月

久保:「GKは変わり者が多い」と、昔から言われていますが。

田口:多いですね。性格がいいけど、変わっているというか。相手を困らせてやろうみたいな駆け引きはありますけど、性格が悪い人は少ないですよ。

久保:個人的なイメージだと、1番手のGKは我が強いというか、自分を持っているタイプが多くて、2番手は穏やかでエゴを出さないタイプが多いような気がします。そういう意味では、田口さんは1番手にも2番手にもなれる珍しいタイプです。先発と途中出場で、考え方を切り替えたりしていますか。

田口:スタートで出ても、途中からでも、最初の一本を止める。出た瞬間から止めることだけを考えています。

久保:どうしても止めておきたい節目のシュートがありますよね。不可解な判定で7mスローになってしまった時だったり、退場者が出た直後のシュートだったり、「ここを止めないと、相手に流れがいってしまう」シュートがあります。

田口:そこに交代した直後の一本目をプラスして、試合の流れを引き寄せるよう意識しています。でもチームに波があるから、一本目でどんなシュートが来るかわからない。交代で入った瞬間から、いきなりノーマークが来たり。かと思いきや「ここはちゃんとDFの枝で止めてね」というようなディスタンスシュートが来たり。そこが読めないから、コート上をよく見ておかないと。今はDFで誰が出ている時間帯なのか。この布陣だから、このあたりがDFの穴になっているのか。他にも相手のメンバーとか流れもあるから、考えることはいっぱいです。突発的な事態も起こりうるので、今シーズンは「チームの誰よりも冷静であろう」というのをテーマにしていました。(下に記事が続きます)

松本ひかる(北國ハニービー石川)は戦友

松本ひかる(北國ハニービー石川)は究極のオールラウンダーであり、チームプレーヤーだった
松本ひかる(北國ハニービー石川)は究極のオールラウンダーであり、チームプレーヤーだった

久保:松本ひかる(北國ハニービー石川)が引退を表明した時に、田口さんは「戦友」と表現していましたね。一度も同じチームでプレーしたことがないのに、どうやって戦友になったのでしょうか。

田口:松本さんは職人的な選手です。どこのポジションに行っても冷静だし、自分のできることを常に考えています。合宿で一緒になって話をすると、自分のことより仲間のこと、チームのことを常に考えていました。そういう話を聞くと「私ももっとやらないと」と思えるし、「そういう風にやれるからチームスポーツ、ハンドボールは楽しいよね」と思えます。試合後も「今日のあの捕り方、嫌でしたよ。やめてくださいよー」みたいな会話もするし、お互いの癖を読み合いながら、遊びも交えて長年やってきた感じです。

久保:松本ひかるのシュートは純度が高いですよね。自分のできる範囲で、しっかりと考えたうえで駆け引きをして、高確率で決めてきます。余計なことやつまらないミスをしないから、一本一本がチームに貢献するシュートと言えます。

田口:だからこそ、ひかるちゃんのシュートは止めたいんですよ。

久保:このあたりは、長くやっている者同士の特権ですよね。長くやっていれば、データの蓄積もあるでしょうし。

田口:データはよしあしですよね。データに頼りすぎると、初見の相手に弱くなってしまいます。私も初見の相手は苦手です。最近は分析にかかってこないシュートを打つ選手も増えているので、その時々の状況判断を高めたいです。 

言われたとおりにやるべきなのか? 

広島メイプルレッズ時代の田口=2013年1月
広島メイプルレッズ時代の田口=2013年1月

久保:昔の話になりますが、田口さんがメイプルレッズで4年目の時、当時の呉成玉(オ・ソンオク)監督が「田口が私の言ったとおりに捕らない」と怒ったことがありました。それ以降、出場機会が減ったように見えたのですが、当時の出来事を今はちゃんと消化できていますか。

田口:その話はめちゃくちゃ覚えています。呉成玉監督に「私が右に行けと言ったら、右に行けばいいんだ」と言われて、「だったらGKは私じゃなくていいじゃん」と思って。今思えば、私が若かったですね。その当時は自分のやりたいことがあったんで。

久保:若い頃から「私は小さいから、考えてプレーする」のが、田口さんのアイデンティティーでした。監督の命令と、自分で考えること。時に相反するこの2つを、どうやって折り合いをつけていったのでしょうか。

田口:監督さんが勝負師目線で言っていることは、だいたい合っているんですよ。今シーズンのラティーダでも、東長濱秀作監督から「ここのこういうシュートは止めてくれ」というオーダーがかなりありました。

たとえば「この選手のサイドシュートは、絶対に近めをあけるな」とか。それを今シーズンは取り入れてきました。取り入れないと、監督のゲームプランが根本から崩れるので。言われていた内容が自分の考えと一致することが多かったから、シュートを止めて「やっぱりそうだな」と思うことがあったし、「私はこう思うんですよ」「この時はこうした方がいいんじゃないですか」と伝えたら、秀作さんも「それはいいよ」と言ってくれました。ちゃんとお互いに話ができて、整合性が取れていたらいいのかな。

久保:年数を重ねて、指導者に近い視点を持てるようになったのでしょうか。

田口:指導者の視点で言えば、毎試合同じくらいのセーブ率が、チームが勝つために必要です。そこは今シーズンの私にはできませんでした。いい時と悪い時の差があったから、監督さんでも読み切れないところはあったと思います。毎試合あと2~3本阻止していたら、プレーオフに行けたのかなと考えたら、もう少し我を出してもよかったのかなと思ったりもします。もっとやりたい捕り方もあったので。「そういうのをやっていいよ」という密な連携が、監督とGKとでできているチームが、日本にはそんなにないような気がするから、選手はもっと勉強して、監督も一方通行にならないで、お互いにどう思うかディスカッションできるようになれば、もっとよくなるのかな。(下に記事が続きます)

まだまだうまくなれる

久保:最後に熊本ビューストピンディーズへの移籍を決断した理由を聞かせてください。

田口:GKコーチのいるところで、私自身もっとレベルアップしたかった。これが移籍に踏み切った大きな理由です。これまでは独学に近い形でやってきましたが、将来GKの指導者になりたいので、GKコーチのもとで自分をもっと伸ばしていきたいし、GKや指導のことをもっと学びたいという思いがありました。またプレーオフに行けるチームでプレーするチャンスをいただけたのは、私にとってもステップアップです。

久保:37歳になっても、貪欲に自分自身の成長にフォーカスしていますね。新しいシーズンの活躍を期待しています。ありがとうございました。

田口 舞(たぐち・まい)1988年1月10日生まれ、愛知県出身。名古屋市立宮中学~桜花学園高校(愛知)~筑波大学~広島メイプルレッズ~飛騨高山ブラックブルズ岐阜~ザ・テラスホテルズラティーダ琉球。コートネームは「レオ」。身長166㎝の小柄なGKだが、下のボールに強く、リーグH(日本リーグ)で長年にわたり活躍している。ザ・テラスホテルズラティーダ琉球の創設メンバーで、チームの広報も兼務していた。リーグH女子最年長プレーヤーは、2025年度のシーズンから熊本ビューストピンディーズに移籍する。

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