水泳・飛び込み日本代表の三上紗也可(24)=日体大大学院=に会った。
女子3メートル板飛び込みの国内トップ選手で、2021年東京、2024年パリと2大会連続で五輪に出場。縄跳びで三重跳びを連続で軽々こなす脚力の持ち主で、弾力性のある板の反発力を生かした高い跳躍から高難度の技を繰り出して世界と戦っている。
世界の女子で数人しか跳べない「5154B」(前宙返り2回半2回ひねりえび型)の大技をすでにものにしているメダル候補ながら、三上の課題は「本番」。東京五輪ではその技を披露するはずの決勝に進めず、準決勝敗退。パリ五輪では大技を繰りだす前の序盤の演技から入水が乱れ、予選を通過できなかった。三上は2028年ロサンゼルス五輪への挑戦を競技人生の集大成とすると決めている。
パリ五輪前年、スポーツ✕ヒューマンが密着取材
三上を私に紹介してくれたのは、NHKのスポーツドキュメンタリー番組「スポーツ✕ヒューマン」を手掛ける映像ディレクターの友人、坂本春菜だった。彼女が三上選手に密着取材した「スポーツ✕ヒューマン」はパリ五輪の前年2023年10月にオンエアされ、私もその番組を通じて飛び込み競技の華麗さと、はかなさを改めて思い知った。
1本の演技が約2秒で終わる「板飛び込み」。女子に課せられる全5回の演技を合わせてもわずか10秒ほどの競技を45分の番組で掘り下げたことだけでも画期的な番組だったが、大事な場面で失敗してしまう弱さを乗り越えようとする三上に約4か月間、寄り添った彼女の粘り強い取材に私は刺激を受けた。
長期取材だから見えるディテール

2025年3月、東京都内の飲食店。三上本人と坂本ディレクター、4か月間カメラを回し続けた男性カメラマンとテーブルを囲んでの食事中、坂本ディレクターが番組には盛り込めなかったと話した三上の取材エピソードのなかで、驚かされたことがある。
それは三上の代表合宿中の昼食が4か月間、ほぼ毎日「セブン-イレブン」だったということだ。それは長期にわたって、毎日取材した坂本ディレクターだからこそ見えたディテールだ。
三上が飛び込み競技の強化合宿を行う宇都宮市の日環アリーナ栃木屋内水泳場(栃木県総合運動公園屋内水泳場)は近くに飲食店が少ない事情もあるという。出前や弁当を発注するにも、少人数だから割高になる。
三上の年間300日は競技漬けの日々。1日に多い時で約80本の演技を淡々と繰り返すなかで、昼食選びに時間を割く余裕はない。夕食もたいていはスーパーで買うか、ファミリーレストランで済ませている。だから、三上は宿舎からプールに向かう朝、栄養士が練習メニューに合わせて作成した摂取カロリーなどの目安をもとに、セブン-イレブンで昼食を買い、レンジで温めて食べていた。「自分で好きなものを選べるから」と前向きにとらえてもいた。
私自身もセブン-イレブンのヘビーユーザーで、栄養価が高く手軽に全粒粉タンパク質が摂れるチキン&エッグのロールパンなどは大好物。だけど、一方で専属シェフが国際大会に帯同するサッカー日本代表や、手厚い食のサポートがある全農が所属先だった卓球の石川佳純さん、提携するファミリーレストランで無料で食事ができる実業団陸上部の選手ら、恵まれた選手たちも取材してきた。一瞬の演技にかける三上にも、せめて他の選択肢やよりよい食事サポートがあれば、という思いが募った。
坂本ディレクターは「オリンピアン、日本代表なのに、あまりにもご飯がさみしかったので、昼食のシーンを撮るときにはスーパーで買ったシャインマスカットを差し入れしたんです」と話した。
大学院で学び、寮を出て自炊も
三上は2024年4月、日体大大学院進学を機に寮を出て独り暮らしを始めた。これまで寮・宿舎とプールの往復がほとんどだった生活の行動範囲は少しずつ広がり、挑戦することも増えた。鳥取・米子南高校時代には全国高等学校家庭科食物調理技術検定1級、2級を取得している。もともと料理することは好きで、自炊も始めたという。
「少しでも多くの人々に飛び込み競技を知ってもらって、これから日本を背負う若い選手たちが育っていく環境を整えたいです。そのためには、今後飛び込み競技を始める子どもたちのためにも道をつくらなければいけない」と三上。
次の2028年ロサンゼルス五輪への挑戦を競技人生の集大成とするつもりだ。大学院で学び、独り暮らしをし、そして世界と戦える体作りを意識して始めた自炊。これまでの東京五輪、パリ五輪とは少し環境もアプローチも変えて、自立した環境から次へ跳びだす三上の変化に注目している。
三上は3月20日~23日、東京アクアティクスセンターで開かれる世界選手権(7~8月、シンガポール)派遣選手選考会 に出場する。
三上紗也可(みかみ・さやか)2000年12月8日、鳥取県米子市生まれ。米子南高、日体大を経て日体大院。小2で競技を始め、同郷で1994年広島アジア大会銅メダルの実績を持つ元飛び込み選手の安田千万樹コーチの指導の下、世界レベルの力をつけた。3m板飛び込みで2019年世界選手権5位、2022年世界選手権7位。2022年世界選手権では女子シンクロ板飛び込みで銀メダルを獲得。五輪は東京、パリ大会の2大会連続出場。155センチ、55キロ。
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